介護保険申請の実験談 第2回
増澤喜一郎 
 当たり前のことだが、介護を受ける場合には、区役所に行って手続きをしなければならない。今月は、区役所でどんな目に遭うのか、それをお話ししよう。
 さて、区役所が発行する「要介護認定の仕組み」を読むと、こんな風に書いてある。
 ーあなたが区役所へ行って申請をすると、あなたのご自宅に認定士が訪れ、事情を聞かれること、また同時にかかりつけの医者の診断書も書いてもらうことを指示されるー
 要は認定士と医師の両方の意見によって、介護が必要かどうかを認定してくれるという仕組みだ。
 そこまでの手順は知っていたが、もう少し予備知識を得たいと思い、申請する一週間前に区役所の介護相談室を訪れてみた。
 「介護の申請に関するご相談ですか?」
 応対してくれたのは、河野さんという可愛いお嬢さん。お役所慣れしていない初々しさから、まだ新人だなとピンと来る。訳知り顔のベテランでなくてホッとした。
 「介護のことですと、どこか具合の悪いところがおありなんですね」
 内心、困ったなと思う。まさか、宮崎女史に頼まれて介護の実務を探りに来たとは云えない。
 そこでせいぜい病人らしく見えるようにする。
 「実は、最近、あちこちの具合が悪くて…。いや今すぐというわけではないんですが、今日は申請に来たのではなく…、介護保険のことを何も知らなくて……、いろいろ教えてください」
 と、オズオズムニャムニャ云う。
 「ああ、そうですか。介護保険はすぐ出るわけではないので、万一に備えて早めに準備しておくというのは大変良い心がけです」
いくつになっても若い娘に褒められるのは良いものだ。
 さてまとめよう。(1)介護の認定は申請してから一か月くらいは掛かること、(2)申請の際には介護保険証を持参すること(お医者さんに行くときに健康保険証が必要なのと同じ)、(3)認定結果は、提出した介護保険証に記入されて、後日、区役所から送られてくる。ここまでが区役所の窓口での手続きのあらましだ。
 いよいよ申請手続きだが、七月十一日、妻と一緒に再び区役所の介護相談窓口に被保険人として神妙に3番の席に座り、河野お嬢さんを呼び出した。
 ここから、申請した後のことになる。まず、区役所から派遣された認定士が自宅にやってくる。(4)自宅における状況を専門家の目で見て、介護が必要かどうか判断するためだ。
 「あらかじめ認定士さんから電話が掛かってきますから、ご都合の良い日を打ち合わせてください」
 という河野さんがていねいに説明してくれる。
 それと同時に、(5)区役所から渡される書類を、かかりつけの医者に渡して、必要事項を記入してもらわなくてはならない。記入済みの書類は医師から区役所に直送される。私としては、どんなことが記入されるか、大いに気になるところだが、事前に申請者本人に用紙が渡されるので、おおよそ見当がつく。これなら一安心だ。
 こちらの元気な顔を見て、河野嬢は、最後にこう付け加えてくれた。
 「横浜市では、増澤さんのようなお元気なお年寄りで、もし介護保険給付の対象にならなくても、日常生活に支障を感じるようなときは、家事のお手伝いをする仕組みがありますから、とにかく認定を受けてみてください
 ともかく、こうして難関の第一歩は超えた。次は認定士の自宅訪問についての顛末だが、これは次号に譲りたい。
 ところで区役所から介護保険に関する資料やパンフレットをいただいてきた。その中に「指定居宅介護支援事業者名簿」というリストがあった。いったいどんな団体がやっているのかと目を通し驚いた。横浜市だけで九十三社あるが、ほとんどが公の機関である社会福祉法人や医療法人、あとは営利専門の民間企業。NPOはたったの五団体に過ぎない。老人介護をやろうとするのに、営利会社がたくさんあると云う事は一体全体どうなっているのか!という義憤めいた気持ちになるが、このことについては又の機会に譲りたい。